新卒爆速退職者の人権は如何に2

前回(同タイトル)の続き。

大学在学中のパッパラパーな私は全く就活にあたっての勉強をしておらず、卒業後再就職活動をしようにも右も左も分からなかった。かといってそのまま無闇に一人で走り出せるような勇敢さも持たず身動きの取れないままになることを恐れた私は、転職エージェントなるサービスを利用することにした。

転職エージェント。あまり良い噂を聞いたことがない。社会のイロハも知らない幼気な求職者たちを口車に乗せ、異様に低い基本給をみなし残業代で嵩増しして誤魔化してあるような企業へ入社させ、馬車馬のように働く労働者の賃金から中抜きした甘い汁をしゃぶり尽くす。紹介された労働者は当然転職を望むが、110日にも満たない年間休日は、長時間労働シナプスを削られ疲弊した身体を癒すことで精一杯。かと言ってみなし残業代でなんとか黒字を呈しているだけの安月給では貯金もままならず、転職先を見つけず退職などできるわけがない。そうして社会という回し車の上を走り続けることを余儀なくされた哀しきハムスターたちを量産する、言わば現代の奴隷商人。それが私の転職エージェントへのイメージだ。

そんな奴隷斡旋業者へ身売りをすることにしたのが私だが。どの口でこんな悪口言ってるんだ。いやでも就職"エージェント"っていう響き、めちゃくちゃ胡散臭くないか。もう人を騙すことで生計立ててることを隠す気などさらさらなさそうな肩書きのネーミング、最初に誰が考えたんだろうか。

エージェントに頼ることにした理由はいくつかある。まずは非常に物臭な私が、持ち前の継続力だけで終わりの見えない就活を最後まで駆け抜ける自信がなく、誰かにスケ管をしてもらうことで持続力を高めたかった、というのが一つ。

そしてもう一つは面接対策だ。前回でも書いたが、私の職務経歴は惨憺たる状態で、なんなら白紙の方がマシだと思えるくらいだ。そこを面接担当官に突かれた際に、どう返すかかなり考えたが何も思い浮かばなかった。そこをなんとかフォローする言い訳を一緒に考えてくれる大人の手を借りたく奴隷商人、間違えた、エージェントの力を頼ることにした。

ということでエージェントの中でも最大手っぽいところを二つほど、今週の頭に登録してみた。まず求職者各々にマンツーマンの担当者が就き、希望の就職時期、職種業種、環境や地域をカウンセリングし、それに適した企業を斡旋しそこに就職できるよう書類作成や面接等のサポートをする、というのが一連の流れらしい。結婚相談所とかのシステムに近いかも、と思った。

現在は登録をし、担当者とメールのやり取りをし、最初の面談日が決まったという段階だ。しかし、その面談に向けてのメールの中で、一つ目に止まった文章があった。

当日は(本名)様の転職理由や、 これまでのお仕事で頑張ってきた事(強み、やりがい)、 (中略) 方向性の検討、求人の提案ができればと思います。

とのことだ。十中九十定型分をそのまま送信しているんだろうし、悪気がないのも分かるが、担当となった方は私に「これまでのお仕事で頑張ってきた事」を伺いたいらしい。

パチ屋で2ヶ月ぽっち働いて泣きべそかきながら退職した人間に、前職で頑張ってきたことや身につけた強みを聞くって、サドっ気強くない?羞恥プレイ?就職活動にあたって避けられないところなのは分かっていたし、これから幾度も面と向かわないとならないことだというのも承知のつもりだった。しかし、新卒で入社したのがパチ屋で、しかもそこを2ヶ月で退職してダラダラフリーターをしているという自分の現状は、真っ直ぐ向き合うにしてはあまりにも情けなく、後ろめたいものだった。

まだ面談は迎えていないので今から何を想像しても無駄といえば無駄なのだが、ため息をつかれたりだとか嘲笑うような目を向けられたり爆笑されたりだとか、良くない妄想が頭の中を駆け巡る。トラウマというほどでもないが、私は就職活動だか面談、面接だかに恐怖を感じる強迫観念のようなものがあるのかもしれない。

さて、ここまで前回も併せて約3700文字の前フリも漸く終わり、ここからが本題だ。なんて答えよ?

それを一緒に考えてもらうためにエージェントに登録したんだから、最初の面談は「ない!!!」ドン!!と答えることも考えたが、就職先を斡旋してもらうことになる相手にそれは心象が悪い。彼らには私の人生を左右させる選択権を持っている。こちらも相手に「えろう頑張ってはりまんなあ、こいつにはちょっとマシなとこ紹介してやるザマスか。オホホ」と思わせる努力はするべきだ。

シンプルにこの問いに答えるならば、「職場環境が合わなかったから」「キャリアの成長が見込めなかったから」となる。しかし、パチ屋への就職を決めた時点でもう覚悟しとけやそんなん、と言われてしまえばおしまいだ。実際に去年だか一昨年だか、数社だけ受けた面接の一つでそう冷たく言い放たれ辟易した経験がある。多分面談への無条件の恐怖も、この経験から来ているものだ。本当にあの面接した女、言っていることは正論だが許せん。言って良いことと悪いことあるやろ。

しかし理由を聞かれて、うだうだ言い訳をするのもマイナスなことは間違い無いだろう。私が向こうの立場でもそんな奴に紹介するような求人はないと判断する。結局、深掘りされてなじられることを覚悟でシンプルな受け答えをすることが最適解なのかもしれない。面談や面接はテストではなく、対話なのだ。一答ではなく、そこから話をどう広げていくかが肝心なのだ、多分。きっと、maybe.

運の良いことに「パンデミックに際し、折角取得したCADの求人が軒並み死んで仕方なくパチ屋に就職したんです……」という言い訳を私は用意できる。親族たちの前では現状の弁解を求められた時、この”時代”というカードを擦り切れるほどに使っている。一旦、来週に迫る面談はこの擦りすぎて使用期限の近いカードに最後の力を振り絞ってもらうことにしよう。そして違う道を模索した時にITを志し、エージェントを頼った、ということをできる限り親身になれるよう感情的に訴える。これだ、というよりこれしかない。

これ以上考えても仕方ないし、あとは面談までProgateとかに気を逸らして面談を待つとしよう。担当の人がめちゃ良い人でありますように祈りながら。新卒爆速退職者の人権は如何に。